【セミナー名】 防災とコミュニティ
【講 師】 田中重好・原口泉・中重真一・松井一實・中田節也
【日 時】 2019年11月7日(木)・8日(金)
【会 場】 霧島市国分体育会

 

1. 自助・共助・公助

日本が世界的に見ても災害が多い国であることは多くの人が実感し、認識していることである。世界で起きる全ての地震の5分の1が日本とその周辺地域で起きており、その地震等によって発生する“TSUNAMI”は世界共通語になっている。こうした中、人々の防災への関心は高まりを見せている。特に、阪神・淡路大震災や東日本大震災のような大規模災害や近年の幾多の気象災害の経験を通じて、「公助」の限界が認識されるようなった一方で、防災の原点としての住民一人ひとりによる「自助」とともに、近隣住民などの地域コミュニティによる「共助」が再評価されるようになった。自然災害そのものを避けることは難しい。しかしながら、災害が引き起こす様々なリスクを少しでも事前に予防し、その災害を乗り越えていく必要がある。近年、災害を事前に予防する力と、しなやかに災害を乗り越える力「レジリエンス」を高めておくことが重要であると指摘されるようなってきた。

 

2. 防災ガバナンスとレジリエンス

災害時には、それまで顕在化していなかった課題が顕在化することがある。そして、その課題は多岐に亘り、それぞれが関連し合う。したがって災害時のレジリエンスを高めるには、事前の防災に関する取組はもちろん、まちづくりや福祉的な活動を含めて様々な活動に日常的に取り組むことを通じて、多様な主体が多層的なネットワークを築いていくことが有効であろう。このような取組を積み重ねることが、「コミュニティ・レジリエンス」、「地域レジリエンス」を高め、地域コミュニティが緊急時に共助の役割を継続して果たすことにつながる。そして、個々人の自助を基本としつつ、行政による公助、コミュニティによる共助が相互に機能し、総合的な取組がなされてこそ、災害に立ち向かい、乗り越えることができる。公・共・私による協働、すなわち防災ガバナンスの構築がレジリエンスを高めるカギとなる。

 

3. 防災とコミュニティ

日本において、コミュニティやボランティアによる災害時の活動が注目されるようになってきたのは、1995年の阪神・淡路大震災以降である。この時を境に「公助・共助・自助」という言葉が一般的になり、同時に「行政の限界」という認識もなされるようになった。東日本第大震災後には災害対策基本法が改正され、地区防災計画制度が導入された。こうしたコミュニティレベルの防災対策への注目は国際的にも進んでいる。これは、発展途上国への国際支援活動の成果が一度の災害によってすべて無駄になった経験から、地域の発展のためには防災対策が不可欠であり、その防災対策をコミュニティをベースに推進してゆくことが重だという「気づき」から始まった。しかし、こうした動きを研究上も、実践上も、充分理論的に整理されているとは言い難い現状にある。

 

4. コミュニティの捉え方

その原因の一つは、コミュニティという概念の捉え難さにある。コミュニティという言葉は一般にもよく使われる言葉であるが、「コミュニティは自治体、町内会の別名」と考えている人が多い。だが、これはコミュニティという概念を正確に捉えていると言えない。確かに、コミュニティに自治体・町内会は含まれるが、それだけの意味であれば、コミュニティという用語は不要である。コミュニティという概念を正しく理解するためには、次の点を理解する必要がある。

  1.  コミュニティは社会関係、社会集団、地域的アイデンティティの3つの要素からなる境界を持った住民に塊である。ここでは、学校、企業もコミュニティの一構成要素だ。
  2.  コミュニティはさまざまな地域の総称である。
  3.  コミュニティは重層的な構造を持っている。
  4.  個々のコミュニティは個性的であり、そのため、コミュニティは多様だ。
  5.  テーマごとにコミュニティを考えることができる。
  6.  コミュニティは行政から「つくることができない」もの、自生的な存在だ。

 

5. コミュニティの地域防災力と自治体

自治体からコミュニティの地域防災力をどう高めるかを考えたとき、自治体の政策において欠けているのは、防災を担当している行政職員自身が、自分の市域のコミュニティの状況を正しく認識していないことである。行政は「公平性の原則」があり、それが住民への行政サービスの指針となっているが、地域防災力対策はこの原則にとらわれると上手くいかない。地域防災力向上の政策は、第一に「ゆるい全市的な基準」とコミュニティごとの「その地区の実情に合わせた」個別的な対応が必要になるからだ。第二に地域防災力向上はあくまで、コミュニティの内発的な努力によらなければならないことを考えると、行政が「協業の事業」を進め、行政はあくまで地域のバックアップの役割にとどまりながら、なおかつ、地域の防災力向上の実質を上げなければならない。地域防災力の向上は、従来のように政府に頼るのではなく、それぞれの自治体が答えを出していかなければならない課題である。さらに、自治体側においては、それぞれのコミュニティが自ら答えを出していかなければならない課題である。こうした地域ごとに答えを出すという自覚から、この問題は出発する。

 

6. 所感

平成30年西日本豪雨災害で総社市も甚大な被害を受けた。被害を受けた、それだけで終わらせていけない、この経験を無駄にしてはならないと私は感じている。この災害で、総社市でも防災士のコミュニティなど新たなコミュニティが出来た。この災害によって生まれたコミュニティを今後のまちづくりに、いかに活かしていけるか、行政の果たす役割をとても大きい。実際に災害を経験したからこそ出来る政策を行い、総社市の防災力向上に繋げていけるよう、防災だけでなくこのコミュニティを活かした提言をしっかりとしていきたい。