【セミナー名】 シビックテックと自治体 土地所有者不明問題と今後に動向
【講 師】 榎並 利博
【日 時】 2019年8月27日(火)
【会 場】 メルパルク京都

 

1. シビックテックと自治体

① シビックテックの背景
IT/ICTの時代
・技術はいかに利活用するか
・技術は専門家のもの
・市民は技術を利用する側

これからの時代

・技術のコモディティ化、技術は市民のものに
・IoT(Internet of Things):人や物がセンサーに
・データをいかに利活用するか、精緻なデータ(AIはデータ次第)
・社会の活力・イノベーションが重要課題に

 

 

自治体の事例:ちばレポ(ちば市民協働レポート)

 

② 行政マネジメントは都市マネジメントの時代へ
第1段階:官僚制の時代 1960年~
・行政の思考方法;伝統的行政管理、プロセス重視
・行政組織:行政管理課、企画調整課…
・市民:「依らしむべし、知らしむべからず」
・情報技術:コンピュータ(電子計算機)
・情報技術の目的:合理化・効率化

 

第2段階:New Public Managementの時代
・行政の思考方法:民間経営手法、成果重視
・行政組織:行政経営課、企画経営課…
・市民:行政から市民への情報提供、説明責任
・情報技術:IT(Internet/PC)
・情報技術の目的:BPR・eGcv(電子政府)

 

第3段階:都市マネジメントの時代 2020年~
内部から外部のマネジメント(都市の成長・持続可能性)へ
・行政の思考方法:創造・共創・イノベーションを重視
・行政組織:イノベーション課、創造都市課、共創推進室、企画共創課…
・市民:地域イノベーション・社会実験のためのパートナー
・情報技術:IoT/AI、Sensor Network、Open Data
・情報技術の目的:協働/共創のためのツール、Smart City(※)の実現
※Smart Gridや人口集中対策など、かつてのSmart Cityとは異なる

 

2. 土地所有者不明問題と今後の動向

① 行政の基本方針(2019.6.14)
「所有者不明土地等対策の推進に関する基本方針」
2019年6月14日 所有者不明土地等対策の推進のために関係閣僚会議決定
(1)特措法の円滑な施行
2018年に成立した「所有者不明土地の利用に円滑化等に関する特別措置法」(以下、「特措法」という)および2019年に成立した「表題部所有者不明土地の登記及び管理の適正化に関する法律」の円滑な施行を行う。
(2)土地所有に関する基本制度の見直し
土地の公共性を踏まえ、土地の管理や利用に関して所有者が負うべき責務や、その責務の担保方策に関して、2019年2月の国土審議会のとりまとめを踏まえ、今後、法改正に向けた作業を進め、2020年に土地基本法等の見直しを行う。
(3)地籍調査等の着実な実施、登記所備付地図の整備
土地の適切な利用の基礎データとなる地籍調査に関し、2019年2月の国土審議会のとりまとめを踏まえ、(中略)今後、法改正に向けた作業を進め、2020年度から始まる第7次国土調査事業十箇年計画の策定とあわせ、国土調査法等の見直しを行う。
あわせて、地籍を明確化するための情報基盤である登記所備付地図の整備については、(中略)必要となる体制を速やかに整備する。一部の所有者が不明な場合を含めて調査を円滑かつ迅速に進めるため措置の方向性を2020年2月を目途にとりまとめる。

 

② 強い所有権問題
(1)「強い所有権」という理想(日本人の意識)の壁
・ 民法第239条第2項では「所有者のない不動産は、国庫に帰属する」。しかし、所有者が不明であっても勝手に処分できず、法と現実が乖離。その背景には「強い所有権」という理想(日本人の意識)がある。
・ 甲斐(1979):「明治時期以来、寄生地主的所有の考え方だ支配的であり、『土地の現実的な利用ではなく、所有すること自体を重んぜしめる』理想が根付くことになった」
・ 大澤(1979):「所有権は国家によって与えられたものという恩恵的な思考が強く」、「明治憲法の所有権不可侵性の思想と結合し、土地所有権を必要以上に尊重する風潮をつくりだした」。「土地は国民の生存に密接に関連するものであるにも拘わらず、商品としての地位を与えられ…憲法でもこれを保障されている」
・ 五十嵐(1990):「日本では経済的価値にのみ執着した『絶対的土地所有権』の観念が強く、諸外国と異なり自由・平等・博愛といった価値と切り離した思想となっている」

 

(2)特異な日本の所有権思想(欧米との比較):五十嵐(1990)
・ 欧米では所有権は自由・人権の基礎と捉える自然法的な所有権思想
・ イギリス・アメリカが相対的土地所有権(使用[建築]の自由は無い)であるのに対し、フランス・ドイツ・日本は絶対的土地所有権。ただし、フランスとドイツでも「利用が所有に対して優先」・「土地は自由には利用しない権利」があり、所有に絶対的な価値を置くのは日本だけという特異性を持っている。
・ 日本は土地所有権を極度に尊重して「権利」ばかりに執着し、「権利と義務」について平等の重きを置いていない。

 

③ 公信力の問題
(1)物権変動を生じる法律行為の考え方
意思主義:当事者の意思表示で十分。形式は不要。フランス民法の考え方
形式主義:当事者の意思表示だけでは不足、登記などの形式を必要。ドイツ民法の考え方
(2)公信の原則
物権の存在・変動の表象(公示)を信頼した者は、たとえその表象が事実の権利関係と一致しなくとも、保護される
(3)日本民法における不動産物権:登記に公信力を認めず。
・ 不動産は、登記簿自体が不完全であり、また登記官の審査権も形式的なものであるため、不実の登記を生じさせることもあるから、真実の権利者よりも第三者の信頼を保護することは妥当ではない。
・ 物権の設定及び移転は、意思主義を採用。不動産の物件変動には登記がなくとも、意思表示だけで物権変動が生じる。→ 登記に公信力を認めるわけにはいかない。
(4)物権変動に関する考え方:公信力の問題と大きく関わる
債権契約と物権契約は異なるとい前提。債権と物権の関係、及び所有権移転の時期について学説が諸説入り乱れている。

 

④ 憲法・民法(物権法)から抜本的見直しを
(1)「強い所有権」問題について
・ 強い所有権は、これまでの習慣も大きな影響を及ぼすものと考えられ、農地法や森林法が「利用」に重心を置く方向に改正されたことを踏まえ、憲法に関する議論や民放(物権法)見直しの議論のなかで、国民のコンセサスを得ていく。
・ 「強い所有権」問題において、「土地所有権放棄」についても議論を行い、今後の所有権のあり方について従来の考えを見直していく。
・ これまでも法学者から指摘されている日本の所有権の特異性について、民法第1条の公共の福祉の観点および欧米法との比較の観点から、現代の社会的課題を解決する方向性で見直していく。
(2)公信力の問題について
・ 民法(物権法)の見直しのなかで、民法176条の意思主義および177条の第三者対抗についての考え方を再検討し、現代の不動産取引における判例や実態を踏まえた内容に改め、不動産登記の公信力についても民法で裏付ける。
・ 物権変動に関してドイツ法とフランス法の混合状態を解消し、実態としてのドイツ型(形式主義、公信力あり)へ民法(物権法)を転換する。

 

⑤ 不動産登記における地理空間情報の問題
(1)現状の地理空間情報の管理
不動産登記法で、次のどちらかが備え付けられている
・ 法14条地図:現地復元性(自然または人為的要因で境界が不明となっても、地図から境界を復元すること)を持つ精度の高い地図。
・ 地図に準ずる図面(公図):法14条地図が備え付けられるまでの暫定的な図面。現地復元性はない。
地積測量図:地積更正登記、分筆登記、地籍変更登記の申請書に添付。
(2)地理空間情報のデータ形式
・ 法14条地図:法務省独自フォーマットのデジタルデータ(座標とベクトルデータ)で管理。データはすべて正解測地系に移行済み、座標は2011年5月24日時点(2011年元期のセミ・ダイナミック測地系)で管理。データは一元化されているが、民亊法務協会がPDFフォーマットで公開するのみ、デジタルデータは非公開。
・ 公図:古い和紙からマイラー原図を作成し、その後スキャニングによりデジタルデータに変換し、法14条地図と同様に管理。

 

所感

所有者不明土地や空き家などは総社市でも度々問題になっている。全国的にみても、所有者不明土地によって、道路整備などの公共事業や災害の復旧・復興事業などが大幅に遅れたり、中止や中断に追い込まれたりするなど、自治体の施策・事業に重大な影響を及ぼし始めている。しかし、現状の法律では、この状況を解決することが困難であることが分かった。法改正が行われた際、迅速に対応できるよう、今から出来る準備をしていくべきだと感じた。