【セミナー名】 第11回 日本自治創造学会 研究大会
【講 師】 村上 裕美子、堤 未果 他
【日 時】 2019年5月9日(木)13:00~17:30 / 10日(金)9:30~15:20   
【会 場】 東京明治大学アカデミーコモン棟3階アカデミーホール

 

1. 日本が売られる ~自治体は最後の砦~

1990年代から世界中で本格化した水の民営化だが2000年から2015年の間に、世界37ヵ所235都市が一度、民営化した水道事業を再び公営に戻している。
主な理由は、①水道料金高騰、②財政の透明性欠如、③公営が民間企業を監督する厳しさ、④劣悪な運営、⑤過度な人員削減によるサービス低下、などだ。一度、民営化したものを公営に戻すのはそう簡単な話ではない。公営に戻した多くの国は、企業利益に損失を与えたということで提訴され敗訴、巨額の賠償金を支払っている。そうまでして水道を公営に戻したい国は後を絶たないのだ。
そんな中、世界の流れと逆行し水道民営化を高らかに叫び出した国が日本だ。高度成長期で作った全国の水道管の1割が耐用年数を超えている。だが、修理しようにも人口5万人を切る自治体では水道事業が赤字になっている。本来、国民の命に関わる水道は、憲法第25条の適用で国が責任を取る分野だ。
しかし、政府にその気はなかった。すでに、小泉政権下で業務の大半が民間に委託できるよう法律が変えられており、ついに2018年7月5日、水道民営化を含む「水道法改正案」が衆議院本会議で可決された。
本来ならテレビ・新聞などで大きく取り上げられるはずのニュースだか、紙面のどこもなかった。なぜなら、日本中のマスコミは足並みを揃えたように、オウム真理教の麻原彰晃と幹部7人死刑執行の話題を一斉に流したからだ。日本人のライフラインである水道が売られる危険な状況になったことを、大半の国民は知らされなかったのだ。

同様なことが、「主要農作物種子法」(以下、種子法)の廃止時にも起きている。種子法とは、日本人の主食である米・麦・豆という3大主要農産物がどんな時にも安定供給されるよう、それらの種子の生産と普及を国の責任にしたものだ。種子の生産と開発は、手間と時間とコストがかかる作業だ。だからと言って「割に合わないから種子は作らない」と農家に言われてしまうと困るので種子法によって「種子の開発予算」は都道府県が負担し、管理も自治体でするようにした。この法律によって種子は「日本の公共資産」として大切に扱われ、47頭道府県の推奨品種だけで300種以上の米ができた。農作物の種類が多いことは国家にとって食の安全保障に関わるリスクヘッジとして有効だ。地味でほとんど知られていないが種子法は、まさに私たち日本人の食の安全保障を守ってきた極めて重要な法律だった。そんな法律が、2017年4月14日、衆参議員合わせて12時間の審議だけで廃止が採決された。このとき、メディアが取り上げていたのは森友問題の報道で、ほとんどの国民が種子法廃止に気付くことがなかった。
 このようにメディアが揃って何か同じ事件を取り上げているときは、裏で日本にとって大切な法律や制度が変わっていることが少なくない。報道を操作され、それを知ることさえ出来ないのだ。こういった時こそ、地方議会の力が問われるときだと私は考える。

 

少子高齢化は日本の勝機

① 成人力調査の結果(読解力、数的思考力)

② 仕事における情報処理・活用に関するスキルの使用

③ 年齢別にみた読解力と数的思考力の習熟度

④ 学歴過剰の割合

⑤ 成人女性の読解力と数的思考力

⑥ 大学卒業者の就職率の男女差


 
グラフ①~③から分かるように日本人の能力は世界的にみても、高いレベルであるということが分かる。それなのに、グラフ④で分かるように、学歴過剰が非常に高い。これは日本人ひとりひとりの能力が、うまく社会に活かされていないということを表していると私は考える。
さらに、女性に着目すると(グラフ⑤)日本人女性はかなり優秀であると言える。しかし、グラフ⑥を見ると、女性の就職率が他の先進国に比べ、低いことが分かる。世界的にみても能力の高い女性が就職していないという現状は、非常に勿体ないものがある。
高齢化・少子化によって益々、人材不足が叫ばれている。しかし、これらの数字を見てみると日本にはまだ人的資源の余力があるように思える。もっとも、女性の経済貢献には大きな伸びしろが感じられる。少子高齢社会の日本の未来を悲観するだけではなく、女性が気持ち良く働ける環境を整えることが出来れば、その能力は新たな日本の武器に十分なり得ると私は考える。