【研修会】第42回市町村会議 議員研修会

【講 師】芝田 英昭、服部 万里子

【日 時】2017年11月6日(月)13:10~18:00  7日(火)9:00~15:00

【会 場】ホテルマイステイズ新大阪コンファレンスセンター

 

1日目 「我が事・丸ごと」地域共生社会による社会保障の変容に、

地方自治体・地域住民はどのように関わるか

シドニー・ウェッブは、「公的機関だけによって実施される比較的低水準のサービスを上回るサービスを実践・実施することで、結果的に公的サービスにおける健康で文化的な水準を押し上げる効果がある。」という「繰り出し梯子理論」を指摘している。これは現代にも通じる示唆がある。例えば、介護保険における訪問介護事業は、1956年に長野県で制定された「家庭養護婦派遣事業」を端緒として、その後大阪市など革新自治体に広がり、結果的に1963年老人福祉法12条に「老人家庭奉仕事業」として法定され、2000年施行の介護保険法では、8条2項に明記された。他にも、公的保育所(認定保育所等)の増設や老人医療無料化も、地方自治体の取組みや住民共同の運動・実践が結果的に国の制度となっている。

政府が行う「地域共生社会」は、社会保障等の公的サービスを縮小したところに、その代替として地域住民に地域課題解決責任を押し付けるものであり、住民共同の運動・実践とは全く異なる。

住民共同の運動・実践は、その目的に公的責任の強化、あるいはその実践を公的制度に押し上げる狙いがあるが、「地域共生社会」はそもそも公的責任を捨象し住民の助け合いに変質させることが狙いであることを鑑みれば、ますます住民共同の運動・実践が必要になってきたと言える。

 

2日目 高齢福祉における自治体の役割~介護保険、地域包括ケアの視点から~

介護保険事業収支は16年間黒字であるにも関わらず、平成30年8月から介護保険の3割負担を導入し、更なる増益が見込まれる。

そして、平成29年5月国会で介護保険法改正が成立した。その第一が市町村の「介護保険事業計画」に自立支援の目標を設定し、地域別、年齢別、介護認定別の結果を公表させ、全国データと比較、介護度改善の成果により交付金を支給する保険者への税制インセンティブである。これは介護保険の目的を、入浴、食事、排泄等の生活の継続から「自立支援の介護保険」に変更し、介護度改善を報酬で評価する考えが背景にある。この改正には全国老施協などの多くの団体が反対声明をだしている。介護保険の理念を介護度完全に一面化し、それに金を付けるとなると、高齢者への自立の強要(高齢者虐待)に繋がりかねない。更には要介護認定が今以上に厳しくなったり、事業所が利用者を「改善する可能性」で選別したり、自立の強要によって事故が起きたり、多くの弊害を招くことになる。

また、長期療養が必要な要介護者には医療・介護を一体的に提供する施設サービスとし、医療法人に追加病医院を持ち、それを廃止し病床数を減らし介護医療院を開設する場合いは病院等に類する文字を引き続き用いることができる。都道府県の病床削減計画の削減予定の病床が介護医療院に移行する可能性が高い。つまり、医療から介護へ財源が移行することから、膨らむ医療費を介護保険料で補おうとしている。

以上のことから、介護保険料の自己負担が増えるにも関わらず、制度の質(サービスの内容)が下がってしまう。特に独居の方は声を上げられない場合が多い。そこでこれからの自治体の役割が重要になってくる。地域包括支援センターが地域のケアマネージャーと連携して、在宅生活困難者を把握すること、介護保険制度以外の生活資源のあらいだし・開発・活用を進めること、見守りサービスの育成、民生委員や自治体・老人クラブ・社会福祉協議会・シルバー人材センターなど既存の団体との連携を強めるなど、無理やり自立を強いられている要介護高齢者に気づき、支えられるような仕組み作りを、自治体で積極的に行っていく必要がある。